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舌痛症って、どんな病気?

舌や歯を詳細に検査しても全く異常が認められないにもかかわらず、舌がやけどをしたような、あるいは歯にこすれるような「ヒリヒリ」、「ピリピリ」した痛みやしびれるような感覚が何ヶ月も何年も続く「舌痛症(glossodynia)」という舌の病気があります。この舌の病気は、大正時代から口腔外科の教科書に記載されています。

40~50歳代の女性に多いとされていますが、更年期との関連はないようです。また、長期間内科のお薬を飲んだからといって、発症するものではありません。

ほとんどの場合、何とか我慢できないほどの痛みやしびれではありませんが、重症の方は「家事もできない」「いっそ死んだ方がまし」というほど耐えがたい痛みになる場合もあります。

症状には波があり、起床直後や午前中は比較的落ち着いていますが、夕方や夜にかけてひどく痛むことが多いようです。

不思議なことに、この舌の痛みは食事中や会話中などはあまり支障がなく、何かに熱中している間は痛みやしびれを忘れる場合もあります。

あまりに長く舌の痛みが続くため、舌のガン(癌)ではないかと心配される患者さんも多いのですが、この病気が原因で舌癌になることはありません。

この舌の痛みには、口内炎の軟膏やうがい薬、あるいは普通の痛み止めやカンジダ症の薬は効果がありません。

舌痛症のおもな症状

  1. 舌の先や縁に「ヒリヒリ」「ピリピリ」した痛みや灼熱感、あるいは、しびれるような感覚が長期間(数週間から半年以上)続く。「やけどをしたような痛み」「歯がこすれるような痛み」「舌のしびれ」などの知覚であることが多い。

  2. 舌、歯、口腔を検査しても舌の痛みやしびれの原因となるような腫れや炎症などは見つからない(器質的異常は認められない)。血液検査でも特に異常値は認められない。三叉神経痛や舌咽神経痛の電撃痛とは異なる痛みであり、末梢の神経学的異常(麻痺など)も認められない。

  3. 食事中や何かに熱中している間は舌の痛みやしびれを感じないことが多い。 むしろ一息つくなど一人でじっとしている時に痛みが強くなることが多い。 ガムや飴玉などを口に入れておくと少し痛みがまぎれることがある。


舌痛症のその他の特徴

  1. 40-60歳前後の中高年の女性に多い。

  2. 真面目で几帳面な性格の人が多い。

  3. 舌癌では?と心配になることが多い。

  4. 銀歯や入れ歯などの歯科治療の後に発症することもしばしばある。

  5. 舌の痛みやしびれは我慢できないほどではないが、1日中気になり、舌に神経が集中している感じである。 口の中が痛いので、イライラしたり、他のことをやる気が削がれたりする場合もある。

  6. 午前中よりも、夕方から夜にかけて舌の痛みやしびれが増悪する。

  7. 食事や会話には支障がないことが多いが、食べ終わった後や長電話の後に舌の痛みやしびれが悪化することが多い。

  8. 痛む部位が移動することがある。唇や口蓋(上アゴ)までピリピリ痛むこともある。

  9. 口内炎の軟膏をつけたり、痛み止めやビタミン剤を飲んでも一向によくならない。

  10. 歯科で何度も歯の先などを研磨しても舌にこすれる感じがとれない。

  11. 口の中が乾いたり、「ザラザラした感じ」や味覚の変化(おいしくない、本来の味がしない)をしばしば伴う。

  12. 不眠、肩こりや頭痛など自律神経症状を伴うことが多い。

  13. CTやMRIでは特に脳の病変は認められない。

  14. なお、うつ病など精神疾患を合併しておられる方は非常にまれです。

舌痛症のほかに舌の痛みが出る病気には細菌やウイルスの感染による口内炎や、口の中に潰瘍のできるベーチェット病などがあります。また細菌やカビによる炎症が起きることもありますが、これらの病気は舌の表面に異常がみられることにより区別できます。もちろん見逃してはならないのは「舌がん」ですので、ご心配なら是非一度耳鼻咽喉科での診察をおすすめ致します

舌痛症以外で粘膜に異常がなく舌痛を呈するものの原因として、ビタミンB欠乏症、貧血、糖尿病、微量元素(鉄、亜鉛、銅など)の欠乏、感染症(カンジダ症など)、高血圧、動脈硬化、薬剤の副作用、口腔乾燥症などが挙げられる。その結果、舌痛患者さんの約30%にカンジダ陽性を、約23%に血清亜鉛値低値が認められた。また、カンジダ陽性患者、血清亜鉛低値患者のいずれも高齢者が多く、基礎疾患が多く認められ、糖尿病や高血圧症が多かった。カンジダ陽性患者の疼痛部位の多くは舌尖部、舌背部であり、血清亜鉛低値の患者では舌全体の痛みを訴えるひとが多かった。
   



舌痛症の原因(メカニズム)

舌痛症の原因は未だ十分に解明されていません。 見た目でパッと分かる異常がないので、痛みの原因は往々にして精神的な問題だと思われてしまう傾向があります。確かに以前は「心因性」の痛みではないかと考えられていましたが、近年では「神経痛」に近い病気で、痛みを伝達し知覚する神経回路に障害が生じているためだと考えられるようになってきました。

舌痛症の患者さんは「気にしすぎて痛いのではなく、痛いから気になる。」と言います。実際にその通りだと思います。「癌ではないか」と心配しすぎて「痛い、痛い」と大げさに言っているわけではなく、「痛みがあまりにも続くから悪い病気を心配する」のです。舌痛症は精神的な病気ではないと考えています。

では舌に潰瘍など器質的な原因がないのに、なぜ舌の痛みを感じるのでしょう? この病気では口腔の痛みの感覚神経が「回線の混線」を起こしていると考えられるのです。すなわち痛まなくてもいい時に、痛みの神経回路が勝手にバチバチと電気信号を発している状態が起こっていると考えています。睡眠不足、体調不良や疲労などによって、この電気信号の活動が影響を受けるため、症状に波があると考えると説明がつきます。

従来、舌の痛みは何らかの刺激(口内炎などのキズや火傷など)が原因で生じるもので、そのような刺激がない状態での痛みは異常であり心の問題と考えられてきました。

しかし、最近の脳科学の知見によると、脳は全く外部入力(外からの刺激)がなくても知覚経験(痛みなどの感覚)を創造できることが明らかになっています。 次のような説明がわかり易いでしょう。「幻肢痛」という病気があります。これは、地雷・交通事故・病気などにより手足の切断を余儀なくされた方が、失ったはずの手や足に痒さや痛みを感じることがあるのです。これを幻肢痛というのですが、気のせいで起こるものではないことが容易に理解できると思います。幻肢痛の痛みは中枢性疼痛というもので、脳内の痛みの神経回路に何らかの異常が起こるために、ないはずの部分に痛みを感じるのです。

このような痛みは中枢神経系のかなり上位、すなわち脳自体にある体性知覚回路を通る電気信号の流れが変化することによって引き起こされるのではないかと考えられています。

舌痛症や幻肢痛の痛みは抗うつ薬によって軽減あるいは消失することが臨床的な研究によって証明されています。抗うつ薬は、その作用機序として脳内のセロトニン神経やノルアドレナリン神経の情報伝達を促進させます。抗うつ薬への反応性から、これらの神経系への作用が「回路の混線」を正常化させていると考えられます。

 

舌痛症の治療方法

気休めや根性では治りません

舌痛症の原因は未だ十分に解明されていませんが、だからといって「どんな治療をしてもよい」と言うわけではありませんし、舌の痛みに苦しんでいる患者さんを眼前にして「どこも異常ありませんよ」と何もしないというわけにもいきません。現在までの科学的知見からできる限り有効と考えられる治療計画を提示するべきです。

消炎鎮痛剤(痛み止め)や口内炎の軟膏などは、気休め以上の効果はありません。いくら歯を研磨しても「歯がこすれるような痛み」はあまり変化しません。注射による神経ブロックなども効果が疑問視されています。心の病気ではありませんので、「楽しいことでもやって、舌のことは気にしないように」などと言われても「痛いものは痛い」のです。

では、どのような治療方法が有効なのでしょうか?

現在、最も有効な治療法は抗うつ薬を中心とした薬物療法です。 「えっ、うつ病の薬ですかぁ?」とびっくりしたり、飲みたくないといわれる患者さんもおられます。
早とちりや誤解はしないで欲しいのですが、心の病やうつ病と診断して抗うつ薬を処方するのではありません。舌の慢性疼痛を治すために抗うつ薬が必要なのです。

30年以上前から、舌痛症にアミトリプチリン(トリプタノール錠)などの三環系抗うつ薬が有効であることが報告されています。現在では、抗うつ薬には抗うつ効果とは異なる働きで鎮痛効果を持つことが科学的に証明されています。しかし、「うつの薬」といった偏見が患者さんばかりでなく、医療従事者の間にも根強く、また処方の仕方にもそれなりの知識や習熟が要求されるため、あまり普及しなかったようです。

抗うつ薬には、その作用機序から三環系、選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン取り込み阻害薬(SNRI)などがあります。最も切れ味がよいのはアミトリプチリンですが、副作用を考慮するとSNRIやSSRIが第1選択薬として適していると考えます。

抗うつ薬を服用すると、早ければ4-5日目から、遅くても1週間から10日くらいで舌の痛みが緩和していきます。理想的に治療が進展していけば、3-4週間後には痛みは7割方改善していきます。胃腸の調子が少し悪くなる場合もありますが、軽い整腸剤を併用すればすぐに治まります。不眠などが伴う場合、睡眠導入薬や抗不安薬(いわゆる安定剤)を併用することもあります。

効果が十分得られたらそのまま数ヶ月は薬を続けて再発・再燃を防ぎます。症状に波は多少残りますが、徐々に落ち着きますので心配は要りません。一生飲み続けないといけないものではありませんが、半年から1年くらいは続けた方がよい場合が多いようです。年単位で継続しても、きちんと通院していれば特に副作用などの問題は心配ありません。

しかしながら、抗うつ薬の鎮痛効果には個人差があります。その患者さんごとに脳内で起こっている「回路の混線状態」が微妙に異なるようで, 残念ながら「この薬で全員が治る」というところまでは治療法が確立されていません。

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